熱海

いつだってどこでだって『今行きたい観光地は』と聞かれれば必ず『熱海』と答える。二年ぶりに行った熱海は大して変わっていなかった。当たり前と言っちゃあ当たり前。暫く行けなかったので、だいぶ期待で記憶がよいほうに脚色されていたのではということが行くまで心配だったのだけど、全くそんなことはなく。
東京方面から行く場合、私が知っている道(車ね)は東名高速で厚木ICまで行って、そこから小田原厚木道路、真鶴道路、それを下りてからは国道135号線を経由して熱海の市街に入ってゆく。小田原のところでそれまで山がちの景色から急に目の前に海が開け左手に海を見ながらの道になり、真鶴半島をくるりと囲んで走る真鶴道路からずーっと伊豆半島の先まで続いている道は常に海が見えるようになっている。さすがこのあたり昔から景勝地として名高いだけあってかつての道路公団の力の入りっぷり(そして今のすたれっぷり)が素晴らしいが、20分はほぼ同じ景色が続くので飽きてきたら道端の電柱にかかっている観光施設の広告の数々を見ていれば目も冴えてくる。宇宙美術館やムクデン満鉄ホテルなどを単純に場末という言葉で括ってはいけないわん。
こういう場所を東京の人間が『取り残されたような』と形容して、日頃のハイソサエティーかつモダーンな生活では得られない何かを求めて訪ねてきて実際「何か別の感覚」を得て帰ってゆくことは簡単で安直。私も東京から気の向いたときに訪ねていくかぎり、結果的にとっている行動は同じで人のことは言えないけれど、それらの今では表向きではない場所がなくなっていってしまう前に一つの町でも多く見ておきたいんですよ。用意された観光地に行ってもちっとも面白くないというのも大きいけど。
それにしても熱海市街に久し振りに行ってドキッとしたのはホテルニューアカオがある網代寄りの地区は2年前と変わらず活気があったのに対し、湯河原よりの地区の荒廃具合。前述の国道135号線で入ってゆくと真っ先に目に入る所なんだけれど、2001年に閉館した老舗のつるやホテルの半分だけ取り壊されて土台に粉々になりきれていない壁が崩れたその間に、かつての大浴場のタイルがきらきら光っていた。伊東や網代と比べても段違いに観光地として大きな町なのでこれ以上廃れていかないことを祈るばかり。町よりも上の方にある会社持ちの保養所なども、うち捨てられたところがどうやら多そう。
旅行という形でどこかの町に出かけるかぎり、結局は大なり小なりその町の人間にとって私は観光客以上でも以下でもない。下手な形でそれを一見ウヤムヤにしようと努力をされるよりもよっぽど観光客という形で受け入れられたほうが楽。その点にかけては熱海は超一級の観光地だから私は熱海が好き。