土曜日

仕事の契約更新の帰り、地元の駅で電車を降りて、とぼとぼ暗い住宅地の間を歩いていると、10mくらい前の道の左側をまだずいぶん若いらしいゴールデンレトリバーの犬(落着かなさで一目瞭然)と、飼い主がぐいぐいその犬をひっぱりながら歩いているのが見えた。どうやら訓練中らしく、舌打ちなどしてかなり犬にいらいらしている様子。あんまりにその犬が道端の草や生け垣などに次々に注意を向けることに夢中になっているので、数分の間に私はその犬の5mくらい後にまで迫っていた。私はその犬に夢中になっていた。
というのも、四本足の動物の後ろの太ももが小さいころは大好きで、とりわけ馬の太ももが大好きで小学校の頃そればかり描いていたころがある。ほらあの、薄いけど堅い皮膚の下で筋肉の筋が複雑だけどしなやかに動いている様子がものすごくダイレクトに分かるから。その犬の太ももからおしりは若さで太ってぷりぷりしていて、でも毛が長いからこれが元のおしりの形を伝えたり、巻き毛のところとかは膚の形を奥深く隠していたりする。真後ろから見ていると足が交互にぴょこぴょこ動いて歩いているのはそれだけで独立した生物のようでもあり、歩きながら感心。気がついたら私はその犬の後ろを追っていた。
そしてその犬が道の真ん中で座り込んで排泄物を出しはじめた瞬間、私の後方から強い車のヘッドライトが射し、犬の姿が煌々と照らし出されたのだった。夜だというのに上げたしっぽの下の黒い孔までよく見えたし、ライトにビックリして振り返った犬の顔はとても情けなかった。本当は全然恥ずかしくもなんともなかったかもしれないけどね。
その犬の横を徐行しながら通りすぎていった車は誰か偉そうなおじさんが乗った黒いリムジン。